2019年にINAC神戸レオネッサ（以下、I神戸）の一員になった水野蕗奈。｢たまにU－16（日本代表）とかU－17（日本代表）に呼ばれていたくらいで、高校自体は全国大会にも出たことがなかったので、INACから声を掛けていただいたときは『本当に？　本当に自分ですか？』となりました（笑）。プロサッカー選手になることは遠い夢のように思っていましたけど、声を掛けていただいたことで、チャンスは転がっているではないですけど、自分にも可能性があるんだと思い、そこからもっと上に行きたいと思うようになりました｣
 
2020年には当時のトップリーグだったプレナスなでしこリーグ1部で新人賞を受賞。WEリーグ初年度となった2021－22シーズンは16試合に出場し、リーグ優勝も経験した。「入ってすぐの頃はテレビで見ている選手ばかりのチームで、その人たちと一緒にサッカーをしている感覚が強くて、緊張とか不安などで縮こまってプレーすることが多かったのですが、先輩方にいろんな声を掛けていただいて、１年、２年、3年とかけて自分のできることを増やして成長できていた感覚がありました。ですが、なにせ大きいケガを2回してしまったので、ほぼ2年間まったくサッカーができず、6シーズン目という感覚はないです」
 
そう話してくれたように、2022－23、2023－24シーズンに左膝前十字靭帯損傷という大ケガを負い長期離脱を余儀なくされた。それでも懸命にリハビリを乗り越え、今シーズンついに復帰。「試合に出られる喜びはすごくありました」と語る彼女は、2024－25 WEリーグ クラシエカップ グループステージ第1節・セレッソ大阪ヤンマーレディース戦に途中出場し公式戦のピッチに復帰。先発出場した2024－25 SOMPO WEリーグ第2節・三菱重工浦和レッズレディース戦では決勝点となるWEリーグ初得点をマーク。さらに、第4節のAC長野パルセイロ・レディース戦でもゴールを挙げ、復活を印象付けた。しかし、実際は「浦和戦くらいまでは順調にきていたというか、復帰の喜びにあふれていたので頑張れていましたけど、日に日に膝が言うことをきかなくなって。試合に出られる喜びはある反面、『自分はもっとできるのに』というもどかしさもあり、ケガをしたことを痛感したというか……。もっとやりたいけど、膝がうまくいかなかったので、気持ちを整えるのに時間がかかりました」
 
気持ちとは裏腹に膝の状態に悩まされた水野にとって苦しい前半戦になったが、「ウインターブレイクで気持ちも切り替えて、足にも向き合っていたらコンディションもだんだん良くなってきて、今は伸び伸びとやれています」。その言葉どおり、出た試合ではサイドを活性化させ、直近2試合では先発出場。前々節のAC長野戦ではカルロタ スアレスの得点をアシストし、前節の浦和戦ではリーグ戦では今シーズン最長となる71分間の出場を果たした。
 
今節の大宮アルディージャVENTUS戦ではどのタイミングでの出場になるのかは分からないが、「大宮は後半戦に入ってから結果が出ているチームで、得点を結構取っている選手もいます。その選手にやらせずに自分たちが早めに得点を取ることと、めっちゃ普通のことですけど、点を取られずに自分たちが点を取れるかが勝敗のポイントだと思っています。そのためにも、試合に出たら自分のやるべきことをやって、サイドを支配できるような雰囲気を作っていきたいです。これからすべての試合で勝たないと優勝はないと思っているので、全部勝つつもりで一戦一戦を戦っていきたいです｣と静かに闘志を燃やす。
 
「WEリーグには個で打開したり、点を取る選手があまりいないと思うので、そこの部分をもっと磨いていきたいです。もっと磨いていければ、自分にしかできない特長になっていくと思いますし、チームとしてもあまり得点が取れていないという状況もあるので、そこをもっと伸ばしていければと思っています。まだまだ成長できる部分はあるはずですし、シノさん(大野忍コーチ)が特に攻撃面でいろいろなことを教えてくださるので、たくさん吸収したいと思っています」
 
大ケガを乗り越え、自身のため、そしてチームのためにさらなる成長を目指す水野。サイドを駆け上がる彼女のプレーから目が離せない。
 
【スポーツライター・金子裕希】